風の色、海の色、バルセロナ色

バルセロナからの気ままな風。
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記憶の重さ、遠さ…
 海外に暮らしていると日本で話題の本というのが、早々手軽には読めない。週刊ブックデビューのようなものをたまに見ると、ほほぅ、こういう作家が出てきたんだ〜、とちょっと読みたい気がするが、じっくり考えてみると、まぁ、さほどに話題作だというので直ぐに飛びつく必要もないかな、という気もする。ここでは日本と同じ時間が流れているわけではないのだし。でも頭の中にはおぼろな記憶として残っているので、ぶらりと行った日本語図書館などで見かけると、やはり手に取ってみたりする。話題作はひっきりなしに借り出されているので、めったにないチャンスかも、と思うと重い単行本を抱えることになる。先日行った時には「悼む人」と「1Q84-2」があった。2から読んでも仕方もないので、「悼む人」を借りてきた。



これはかつてブックデビューに紹介されていたのを見た記憶があったのだが、死を扱うテーマが(おくりびと、とか)が続いていたせいもあって、また身近に人を亡くしたことも重なって、しばらく避けて通りたい部分ではあった。映画「おくりびと」を見たのは日本へ帰る飛行機の中でだった。亡くなった人を清め送り出す職業者としての「おくりびと」と、事故や事件で亡くなった人々を、ただただ分け隔てなく悼むことで自らの存在を問い続けている「悼む人」。

悼むという行為は私にはひどく個人的なものだという気がする。悼むという行為は記憶に依るものであり、個人的な記憶のない人を悼むということは、本当の意味で出来ないのではないかと思うのだ。「死」そのものが、そのまま悼むことには繋がらない。「死」を悼むにことにつなげるには、何かしらの記憶、思い出が必要なのではないだろうか。ひとが最も恐れているのは忘れ去られることなのだろう。誰かの記憶の中に留まっていたい、思い出の中で息づいていたい…

弔う気持ち、冥福を願う気持ちがあっても、それは悼むというのとはちょっと違う気がする。その死を悲しみ嘆くという「悼む」という語彙からすると、厳密に私が今も心の中で悼むひとと云うのは、ごく限られた人達である。それは記憶の中で鮮明さを失うことはあっても、忘れ去ることはないだろう人たちだ。記憶の中で彼らが今も息づいているのは、愛し愛されたという記憶からに依るものだという気がする。ひとが愛し愛されたという記憶を持つには、共に過ごした時間がなくてはなるまい。血の繋がりだけでは記憶の中に息づくことはできない、少なくとも私にとっては。結局は「悼む」というのはひどく皮膚感覚的なものなのではないだろうか。触れ合った記憶、その温みが今も私の中に温かい思い出を紡ぎだしてくれる人たち、私にはそんな人達しか悼むことはできない気がする。

この小説「悼む人」が胡散臭い聖人物語に陥らず、小説として成立しているのは、これが恋愛小説であるからだろう。愛を証明することが愛だと思い夫を殺す女と、人の死を忘れていく事に罪を感じる男との、どこか明るい未来を予感させる恋愛小説に仕立てられているのが妙味なのだ。メビウスの輪のように(あるいは自分の尻尾を飲み込む蛇のように?)、愛と死は罪と罰のようにリンクしている。ひどく哲学的な様相を持たせているようで、実はとても卑俗的な面のある物語という気がする。遠くを見ている錯覚を起こさせておいて、実は自分の足元しか見ていない、そんな感じ。

でもこれ、映画になったりするんだろうか? ちょっと見たくない感じ。

映画としては「おくりびと」よりも「歩いても 歩いても」の方が好き。「死んでもいなくなる訳じゃないのよ」というセリフが静かな日常的世界の中で生きている。人は誰でも「悼む人」であるという事が、大道具仕立てではなくしみじみと感じられる作品だったし。しかし、こんなにも「死」を扱ったものが注目を集めるのは、やはり乾いた時代を反映しているのだろうか。自分の母親の墓に7年の間一度も参らずじまい、という某知人の娘の話に愕然としたが、それは若い彼らにとって「忘れ去られていく事」がまだ実感としてない故の残酷さなのだろうか。やがて彼らも年を重ね、思い出によってしか死者は生きられない事に気づき、自分の死が垣間見えてきた時には、その残酷さを知ることになるだろうか。「墓のないことを儚いと云います」というコピーがあったけれど、墓があっても参る人のいない墓は、より無残な気がする。墓は思い出を手向ける場所であろうに。

おくりびとにせよ悼む人にせよ、死は次々と舞い降りてくる。一個人にとっても、死はいつ突然降りかかってくるか解らない凶刃である。未来に繋がる「今」はいつか終わるのだ…

見慣れし野今日は今日の芥子の花    るな
| るな | 本の愉しみ | 00:22 | comments(0) | trackbacks(0) | -









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