風の色、海の色、バルセロナ色

バルセロナからの気ままな風。
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森で茶を摘み、テラスでお茶を
 やっとお天気が回復してきたのか、急激に気温が上昇し、身体的には微妙な季節。日本は新茶摘みが始まったそうな。昔、我が家にも茶畑があり(今も存在はするが、もう摘む人がいない)、祖母が新芽を摘み、揉み出ししていた姿を思い出す。茶の葉は灰汁が強くすぐに指先が黒ずんでしまう。あの茶花の甘い香りは、今も脳の中の何処かに漂っている。

森には西洋サンザシが満開である。8年ほども前になろうか、犬の散歩で毎月曜に会うオジサンたちがいた。ふとしたきっかけで私が声を掛けたのが始まりで、聾啞のおじさんとその奥さん、そしてご近所の仲良し叔母さんの3人組は、毎週月曜、森で会うベルにおやつを持ってきて峠で待っていてくれるようになった。そのキッカケとなったのがこの西洋サンザシ。



三人組のおじさんたちが、ちょうど今頃、この花と葉をせっせと摘んでいたのを見かけた私が、「食用?」かと気になって、声を掛けたのが始まり。「血液循環に効くのよ。お医者さんから勧められたんだけど、何もハーブ屋さんで買わなくってもここらの森には一杯あるから、1年分を採りだめするのよ」と、おばさんたちはニコニコと親切に教えてくれた。その時に名前も教えてもらったのだが、記憶からはポロリ。時々摘んでは飲んでいたのだが、血液循環に良いという言葉を思い出し、花の名前を質問できるサイトで問い合わせたところ、すぐに名前を教えて頂いた。感謝。アイルランドではこの木が3本生えている処には妖精が隠れていると言われ、名前だけは憧れの樹として知ってはいたけれど、こんなにも溢れかえるように森にあるとは思ってもみなかった。

ヨーロッパでは古くからハーブティーとしての効能が有名で、「心臓の草」とも称されているそうな。更年期障害、高血圧、低血圧、血管拡張、不整脈にも効くという。利尿作用もあるとか。秋にはリンゴのような小さな実が付くが、これを乾燥させてもいいそう。学名「Cratagus monogyna」、英名「Hawthorn」スペインでの俗称は「Majuelo」10m程の高さにもなり、白い花弁が雪のように舞い散ってくることがある。



長年気になっていたこの樹の名前が分り、しかも効用まで知ることができたので、今年は頑張って収穫しておこう。枝には思いがけず鋭い棘があるので気を付けないと。キリストの棘の冠はこの木の枝で作られたという説があり、西欧では聖なる木と呼ばれているそうだ。

以前に街でばったり会った折、おばさんが足の手術をした為もうハイキングはできなくなったと言っていたけど、あの聾啞のおじさんは今も元気だろうか。穏やかな笑顔で一生懸命コミュニケートしようとしてくれた優しさが、今も忘れられない。

5月になると我が家の傍の広場に植えられている樹に花が咲き、樹液が飛ぶのか足元がねとねとする。割に地味だが、やはり花だから咲いている時には目を留めるのだが、花が終わった後まではあまり気に掛けることがなかった。去年の秋、風の強い後に足元に一杯落ちている葉と種を見て、なんだか見覚えがあるような気がして仕方がなかった。ちょうど通りかかった友人に聞いたら、「Tilaだよ」と言う。「え? あのお茶の?」 道理で見たことがあった筈、ティーバッグのパッケージに描かれている葉だったのだ。



学名「Tila europea」、和名は「西洋菩提樹」 あの悟りの樹ではなく、シューベルトの方の菩提樹。意外と昔から名前を知っているにもかかわらず、その姿と一致しない樹が多いものだなぁ、と今更ながらに気が付く。30年以上も前になるが「千夜一夜物語」を読んだ時に「めぼうき」という植物が分からず、長い間いったい何なのだろうと謎だった。古い翻訳ものにはこの訳名がよく登場していたが、何のことはないイタリア料理に付き物の「バジル(もしくはバジリコ)」だった。種を水に漬けておくとゼリー状のものができ、それで目を洗ったというので「目箒」、しかし謎かけですな、ここまで行くと。

翻訳文学愛好家だったせいか、本に出てくる樹や植物の名前に惹かれ、ずっと頭の中でもやもやと残っていることが多かった。ハシバミもよく小説の中に登場する名前だが、何のことはない「ヘーゼルナッツ」のことで、ピレネーに避暑に行った時(スペインではAvellana)群生していて感動した覚えがある。今はネットで何でも検索できて、そういう意味では便利ではあるが、あの不可思議な言葉の魅力というか、魔力は薄れてしまった気はする。ハシバミの繁みで愛をささやく、という文章が与えてくれていた世界は広大で、その光景を思い描く力を掻き立ててくれたものだ。確かに、ハシバミの繁みで囁かれる愛と、ヘーゼルナッツの繁みで囁かれる愛との間には、イマジネーションに大きな誤差が生じる。

さて、Tilaもやはり花の咲いている頃に葉共々摘むのがよいそうなので、人目の少ない時にちょっと摘んでみようかしらん。緊張を和らげ、血圧を下げる効果があるとか。夜眠る前に飲むといいと言っていたっけ。カモミールのようなものでしょうか。

ついでにもう一つ。和名はないとの事ですが、学名「Jasonia glutinosa」、スペイン名「Té de Roca」。もっともスペイン全体に分布しているわけではなく、地中海地区、カタルーニャ、バレンシア、そしてアラゴン地方、バレアレス諸島など石灰質の土壌に、その名の「岩場の茶」どおり、石灰岩の岩の上に黄色い花を咲かせる。葉は非常にねばねばしており、味は苦いが蜂蜜と良く合う。カフェインを一切含まないが、タンニンは多いそうで下痢に効くとか。



夏から晩夏に友人のベジェス宅に行くと、散歩がてら摘みに行くのが楽しみ。周りには野生のラベンダーが咲き、踏みしめる足元からはタイムの香りが漂う。車の通る音すらもせず、頭上高く時おり鷲が旋回する姿が見える。ダルたちとぶらりぶらり散歩をし、テラスでお茶を飲む。乾燥した大地を歩いた後の身体の火照りを冷ますにちょうどよい。




そういえば、もうすぐマンサニージャ(スペイン名 manzanilla、英名 chamomile、学名 Matricaria recutita)の花が咲き始める頃。カミツレ茶と言うと何となく薬っぽいけど、カモミールと言うとオシャレ? ピーター・ラビットがベッドでお母さんに飲まされていたシーンが直ぐに思い浮かぶ。作者のビアトリクス・ポターが暮らしていたというヒルトップ村、イギリス田園風景の美しさ…、などなど、想いは空を舞う鷹のように浮遊する。ウォルト・ディズニーがピーター・ラビットを映画化したいと申し込んだ際、自分の絵向きではないからと断ったポター女史。そういうところがイギリス人の良さなんだとしみじみ思ったりする。



森で摘んだ一杯のお茶から、何処まで遠くへ飛び立てるのだろう…。森は春から初夏へと装いを変えつつある。

| るな | 野の花を摘みながら | 11:15 | comments(0) | trackbacks(0) | -









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