風の色、海の色、バルセロナ色

バルセロナからの気ままな風。
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満員御礼
バルセロナのモニュメンタル闘牛場の約2万席が、満員御礼、熱狂的なファンで埋め尽くされた映像を見たのは、初めての気がする。70年代のローリング・ストーンズのコンサート以来だとか。バルセロナ、いやカタルーニャにおける最後の闘牛が、今年のメルセ祭のお祭り気分を盛り上げた。ミケル・バルセロ(Miquel Barceló)が最後の興行ポスターを描き、街に貼りだされたのが9月の中旬。ポスターを貼る場所が限られているバルセロナ、貼られるやいなや引き剝がされたりして、大きな話題を呼んだ。


 

カタル−ニャにおける闘牛が禁止になったのが2010年の夏。禁止にすべきかどうかで大きな議論を呼んだが、概してカタラン人は「良かったんじゃないの?」という反応。La Vanguardis紙のアンケートでは、「カタルーニャで闘牛が禁止になった事に満足しているか」という問いに、Siと答えたのが65%だそうだから、さっさと終わって片づけて欲しい、といった感じかも。今回の最終興行を祝いに、闘牛場周辺に集まった反対運動の闘士たちはカバで乾杯をして実ににこやかだった。最後の興行の立役者はポスターを描いたバルセロと、当代きっての闘牛士ホセ・トマス(José Tomás)だろう。トマスを担ぎあげて外へと繰り出したファンたちのほとんどは、国内移民と言われるアンダルシア出身の人たちと、闘牛興行が行われている南フランスや中南米の闘牛ファンが多かったとか。

闘牛士はスペイン語でToreroだが、「Torero! Torero!」と言うのは囃し言葉で、ちょっとカッコつけてる輩に対する、おちょくりと言うか冷やかしと言うか、そういうニュアンスで使うものだと思っていたのだが、トマスを肩に担ぎあげた群衆が口々に「トレロ! トレロ!」と叫んでいる映像を見て、まぁ、本当にそのまま闘牛士賛美の言葉にも使うものだったのね、とびっくり。





歴史を刻んだこのバルセロのポスター。闘牛ファンに加えて、現在のスペインで最も高値の付く画家バルセロのものとあって、譲って欲しいというファンは後を絶たなかったそうだが、販売などは一切されず1500枚限定だそうな。強烈な接着剤を使用している為、うまく剥がすのはほぼ不可能だと云うコメントもあったが、競売でなんと約2000ユーロの値がついた。うまく剥がした人がいた、ってこと、よね?

バルセロと言えば、この闘牛ポスター騒動と同時に、日本の是枝監督の「奇跡」が最優秀脚本賞を受賞したサン・セバスチャン映画祭でも話題となった。 作家であり画家であったマリ出身の20世紀のフランス人François Augiérasの姿と、アフリカのマリを旅する21世紀のバルセロの姿を重ね合わせるように撮ったドキュメンタリー風ドラマ「ダブル・ステップ 原題:Los Pasos Dobles」(監督:イサキ・ラクエスタ)が、第59回ゴールデン・シェル賞を受章したのだ。今やアントニオ・タピエスを抜いて、スペインで最も知られたアーティストだと言えよう。

このカタラン人の若手映画監督イサキ・ラクエスタ(Isaki Lacuesta)の受賞、そしてゴヤ賞を総なめし昨年のスペインで最も評価の高かった(カタラン語による映画だと言うのに! スペイン内戦時の物語だと言うのに!)「Pa negre(黒いパン)」の監督アウグスティ・ビジャロンガ(Augstí Villaronga)と言い、ヒューマニティ溢れる抒情的な映像が美しい。「Pa negre」はオスカーの外国語部門に指名されたそうで、これはカタラン語による映画としては初の快挙であって、カタランの映画界はとても活気づいている。傷が疼いてやまなかったスペイン内戦時を、やっと語れる様に、描ける様になってきたという事なのかもしれない。少し引いた処から映像に出来る世代によってしか、描く事は出来ないと言う事なのかも。

「Pa negre」はとても重く暗いお話なので、いい映画ではあるけどもう一度見たいかと言うと… でも多くの人に見て欲しい映画ではある。「大人たちの嘘が小さな怪物たちを育てる」と言うキャプションが怖い。こうやって自分の中に巣くう怪物を育てて生き延びてきた子供たちが、ちょうど今80代を迎え、その苦い黒パンの味を伝えられた世代が我々の世代に近い訳だが、この味は次の時代にはどう伝わっていくのだろうか。日本は第二次世界大戦が終わって高度成長を遂げ、戦争時に苦い味を味わった世代から今や飽食の甘い味へと移り変わってしまったが、大災害を境に少しずつ意識が変化してきている気がする。少なくともTVからくだらないグルメ番組がしばらくなかったのは、実に良かった。ここスペインも近年飽食の味わいが強かったが、未だに底の見えない不況が若者たちの上に長い影を投げかけている。飽食は腐敗を生むかもしれないが、この焦燥からはいったい何が生まれるのだろうか。


バルセロナはまた再び夏が戻って来たかのような気配。日中はこのところ27〜29度、そうはいっても朝夕は12度辺りまで下がる。あんなに雨の多い地方と言うイメージのガリシアのビーゴ(Vigo)ですら、この時期に水不足で街中の噴水を制限し始めたから驚きだ。各地でキノコ祭りが始まったようではあるが、収穫量は少ないようだ。こんなに雨が少なくては今年は期待薄かもしれないなぁ。だが嬉しい事にしめじ栽培が始まったらしく、スーパーに日本のようにパック売りが並ぶようになった。何故かなめこは冷凍で出ている。あのヌメヌメが苦手なんだろうか。こちらでもぬめりのあるキノコはあって(mocosoという)独特の風味がある。冬になると青物が何もなくなった昔に比べれば、栽培法の発達とグルメ志向のお陰でか、スペインも食材は本当に豊かになった。

今年は晩秋に帰国予定だが、キノコや新米がちょっぴり心配だ。もうこの歳になれば蓄積するほどの年数を生き延びもしないだろうから、無駄な心配というものかもしれないが。でも、美味しいものと言うのは贅沢な食材と言うものだけではない、何の心配もなく心穏やかに親しい人たちとゆったりと食する事こそが、美味しいのであり贅沢なのである。仕事で豪勢なレストランで同席する事があるけど、美味しい食事が出来た試しはない。美味しい食事と言うのはいろんな意味で豊かな時間を食べる事なのであって、土壌汚染が心配なんて言っていたら台無しだ。本当に豊かな食事と言うのは、そういう意味では失われてしまったのかもしれないなぁ。

ところで、明日は村上春樹がノーベル賞を受賞するのかしらん? 村上ファンが多いスペインの下馬評では結構いける、という評価なんだけども、ねぇ… まぁ、平和賞っていうんじゃないから、ねぇ?


| るな | スペイン事情 | 23:47 | comments(0) | trackbacks(0) | -









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