風の色、海の色、バルセロナ色

バルセロナからの気ままな風。
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植田正治寫眞館
写真というのは、何か特別なものだった。少なくとも私の幼児期においては、寫眞館で映してもらう写真というのは、ひどく改まった余所行きなものだった。私には美人の叔母がいて、彼女の写真が街の寫眞館のウィンドーに長く飾られており、私の七五三の写真もその中に収まっていた。美しいままの叔母と、ちっとも成長しないままの私が収まったガラスの向こうの世界。もう今は、その寫眞館もない。



東京駅にギャラリーができ、私の好きな写真家・植田正治展が開催されているというので、復元されたという東京駅を見がてら出かけてきた。生誕百年だという。土門拳の仏像もいいが、私にはあのリアリズムはあくが強すぎるし。植田正治の心象風景的世界の方が、私のリアリズム感により近い。そもそもリアリズムって何なのか、という根源的疑問すらさらりとかわしていそうなところがいい。



まず、東京駅が全体的に見えるところを探して眺めることに。アムステルダム中央駅がモデルと久しく言われていたが、間違いだそうだ。レンガ建築は、まぁ、そこそこの感動しか受けない。みんな眺めているのでドームの上を見上げる。1914年竣工だそうだから、まだ百年に満たない訳だが、東京大空襲による破壊を経ての復元ということらしい。ヨーロッパの大きな吹き抜けの空間とは違い、意外と小さな空間だ。やっぱり和の空間に仕上がっているのが面白い。ギャラリーは煉瓦壁が見える回廊式で、照明が暗めで落ち着いた雰囲気。ルノアールだのモネだのように、どわっと人が多くないのがいい。

植田正治の写真に出会ったのはずいぶん昔のことだが、不思議な内的空間を持つ写真家として記憶に残っていた。今回の写真展は生誕百年という節目に企画されただけあって、年代を追っての展示は見ごたえがあったし、一人のアーティストが熟成して、そして発酵していく様が垣間見れたように思う。やはり、発酵するという段階が大事なのであって、そこに至らぬままに終わってしまうのは、人が何かしらのモノを生み出せる過程においてもったいないことなのだ。

 

しかし、白と黒というのは美しい世界だ。バルセロナのピカソ美術館に晩年のシリーズ「レス・メニネス(官女たち)」という、ベラスケスの絵を下敷きにした作品がある。完成作は白黒(むろんその間に存在する無数のグレーがある)だが、白黒に至る前の鮮やかな色彩の下絵がある。その夥しい色彩とスケッチを経て発酵したものが、白と黒よりなるモノトーンの世界なのだという事を、なかなか人は理解しきれない。色そのものが持つ意味合いを除去して普遍の世界へと到達する方法が、このモノトーンの世界なのだという事を。植田正治の世界には、そのモノトーンの世界ゆえの普遍性が存在する。

その白と黒のモノトーンの世界では、エロスさえもが普遍的に浄化されている感じだ。まるでセルロイド人形のような、少し硬質で異界的なエロス。白黒で映した妻女と、カラーでの妻女とでは、何だか肌合いが全く違ってしまう。ちょうどあの寫眞館で寫したいつものありのままの自分ではなく、時代を超えて残ろうとする意志を持ったかのような硬質さと、いきなりスナップ写真のごとく自分をさらけ出している卑近さの違い。晩年のカラー作品の大写しの花のエロス。花って、もの凄くエロティックだ。受精するものなのだから、当然なのだが。だが、これがモノトーンだったら、これほど匂い立つようなエロスは感じないのではないだろうか。



植田正治は砂丘をキャンバスとした写真家として有名だが、風により刻々と姿を変える砂丘と雲というモチーフは、彼の柔らかで流動的な感性そのものだ。私も「植田=砂丘」のイメージがあったけれど、今回の作品展でより強いイメージを受けたのが、「道」だった。人は道に立ち、その道は遥かな空間を招き入れている、あたかも人が生まれ出てきた、あるいは往くべき道のごとく。過去と未来の狭間が今という空間だとすれば、我々が立っているこの道こそがその「今」なのかも知れない。砂丘という水平性と、道という軸が交差する植田正治の空間性、世界観。そこで人は、少年は笑っている。



あの、遠くに、人がいる。人が人として存在している。私とか僕とか、そんな私的なものが剥ぎとられた形で。

そんな取りとめないことを想いながら、もう少し歩こうかなと考えているのが、今の私です。2014年、さぁ来なさい! と、言ってみたいね。
| るな | 雑記 | 01:58 | comments(0) | trackbacks(0) | -









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