風の色、海の色、バルセロナ色

バルセロナからの気ままな風。
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バルセロナという街を歩く その3
カタルーニャの最大の祝日といえば、9月11日のディアダと呼ばれる民族の日と、4月23日のサン・ジョルディ。ディアダの日はカタルーニャの血が結束する日として、大規模な行進がある。街中にカタルーニャ州旗が翻る。そしてサン・ジョルディの日は街中に薔薇と本が溢れかえる。早朝のカタルーニャ広場は、朝靄の中すでに薔薇の花を売る店が立ち並ぶ。



老いも若きも、薔薇を買う。愛とは何かを、ふと考えつ。だが、そんなことは忙しさの中に紛れ込んでしまう。義理薔薇も買わねばならぬご時世なのだ。愛とは単独の誰かにのみ捧げられるものではないのよね。100万本の義理薔薇が、たった一本の愛の薔薇に劣るとは言えまい? なんて意地悪な事も考えますね、歳ですかね。2013年に花の付加価値税が8%から21%に上がったせいで、今年は売り上げが15%の下落が想定されているとはいえ(これは義理薔薇分か?)、この日のためにカタルーニャでは600万本の薔薇が取り扱われるのだそうだ。恐るべき愛の力。



昼もたけなわの頃は、こんな凄まじい人出。ランブラス通りからグラシア通り、メインストリートは本屋と花屋と、掏摸がごったまぜだ。こんな日に、薔薇を受け取らぬ女は哀しかろう? 本の一冊も貰えぬ男は寂しかろう? という訳で、いろんな愛や義理、思惑が交錯するのは人の世ならではである。



この日は有名どころの作家がサイン会あちらこちらで開くので、そちらも長蛇の列。そもそもは20世紀初頭にバルセロナの書店が、この日が命日であるセルバンテスやシェークスピアにちなんで、男性には本を送ろうというプロモーションを始めたのが起源という。何しろスペインという国で、スペイン語の出版物とカタラン語の出版物の数はあまり変わらないというから、このサン・ジョルディを本の日として輸入した日本の態度は、あながち間違いでもあるまい。今年、書籍業界はサン・ジョルディにちなんで140万冊の本、約2千万ユーロの売り上げを期待しているとか。この日だけで年間売上高の5-8%だという。今年の売れ筋はカタルーニャ独立に関連する本という予想だ。



マドリッドではスペイン語による文学に対して与えられる最高の賞である、セルバンテス賞の授賞式が行われる。4月23日はセルバンテスの命日でもあるのだ。ドラゴンと、ドラゴンに向かったドン・キホーテを生んだセルバンテスの命日。それが薔薇と本の、愛と知識の交換の日となって今に伝わる。サン・ジョルディの日はいろんなデザインが溢れるのも、おもしろい。今年見つけたお気に入りのポスターはこれ。ドラゴンの流した血がこの赤いバラである。



黄色に赤の4本線、このカタルーニャの紋章は世界最古だとか。やはり血にまつわる伝説だ。14世紀の伝説によれば、旗の記録は9世紀にさかのぼり、897年のムーア人によるバルセロナ包囲戦のさなかに、瀕死の重傷を負ったバルセロナ伯の負傷の血を以って、フランク王国の王シャルル2世が指でバルセロナ伯の黄金の盾に4本の赤い線を引いたのを褒美としたというものである。己の血の代償によって勝ち得た紋章だという訳だ。

そういえばムーア人で思い出したが、スペイン人の苗字にマタモロスMatamoros(ムーア人殺し)というのがある。何とも凄まじいネーミングだが、いかにこの国においてはカトリック色が強いかが分る気がする。先日のニュースではマタフディオスMatajudíos(ユダヤ人殺し)という名の、有権者56名の小村が、名前変更の賛否を問う住民投票をすると言っていた。元来はMato Judíos(ユダヤ人の丘)という名称だったそうだが、これがなぜユダヤ人殺しという名前に変化したのか。ユダヤ人との衝突によるものか、あるいは15世紀から16世紀に行われた異端審問による反ユダヤ主義に由来する変化なのかは、歴史家にもはっきりとは解らないそうだ。

1492年、コロンブスが新大陸を発見した年、フェルナンド・イサベル両カトリック王はカトリックへの改宗を拒んだユダヤ人を異端者と断定し迫害が始まった。どうやらそこら辺りに名前の変化の起源があるいのではないか、というのが有力な説だ。この折に追放されたユダヤ人が新大陸へと渡り、現在のアメリカ経済の支えになっているという説もあるから、金融界を支配するユダヤ人(イスラエル)への配慮ということもある。小さな村の名前の変更、しかしその背景にあるものは深い。そういえば日本でもトルコ風呂が改名を求められた事があったなぁ。今は何というのか、ソープランド? 訳の分からんうネーミング。本来はローマの流れを汲むイスラムの公衆浴場の意味だと思うのだが、まぁ、18世紀末のロンドンではすでに色香を売る場所でもあったというし、あのアングルの絵がいかんのでしょうかね。まだ見ぬエキゾチックな世界はエロティシズムな想像をかき立てやすいのだろう。時代が変われば意義も変わる。時代を背景として変遷した村の名前は、やがて穏健な名前と変わり、歴史は突出したものを飲み込んでいくのだろう。
| るな | バルセロナという街 | 05:55 | comments(0) | trackbacks(0) | -









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